マタリキが夜明けの空に戻ってきた
ブルース・コナーのミュージック・ビデオ、ヴェネチア国際映画祭の復元映画上映
こんにちは。Murderous Inkです。
今週のニュースレターです。
7月10日、ニュージーランドでは、マオリの1年が始まりました。マオリの暦では、マタリキ星団(プレアデス星団、昴)が早朝の空に現れると、1年が終り、新しい年が始まります。
ブルース・コナーのミュージック・ビデオ
まだ《ファウンド・フッテージ Found Footage》という言葉もなかった頃から『ア・ムーヴィー(A Movie, 1958)』『レポート(Report, 1967)』などの実験映画を製作していた映像作家のブルース・コナー(Bruce Conner, 1933-2008)ですが、1970年代末から80年代初頭にミュージック・ビデオを手掛けていたことは知りませんでした。
Mongoloid
Devoの「Mongoloid(1978)」。このビデオは、Devoをコンサートで見たコナーが、ニュース映画、教育映画、B級映画の一部をつなぎ合わせて製作したということです1。
[オリジナルのサウンドトラックのバージョン]
Mea Culpa
America Is Waiting
デヴィッド・バーンとブライアン・イーノは、1981年にアルバム「My Life in the Bush of Ghosts」を発表しますが、このなかの「Mea Culpa」と「America Is Waiting」の2曲のミュージック・ビデオをブルース・コナーが製作します。
このバーン゠イーノのアルバムは、サンプリングを作曲プロセスの中心にすえた、当時としては画期的な作品でした。世界中の様々な録音から音源を発見して利用するという、《ファウンド・サウンド Found Sound》《サンプル・ヴォーカル Sampled Vocals》といった手法を駆使して制作されており、その後のヒップ゠ホップやインダストリアル・ミュージックに影響を与えたとも言われています。映像分野で同様の手法を追究しているブルース・コナーが、この2曲のミュージック・ビデオを担当したのも当然の成り行きだったと思います。
Well now, you can’t blame the people – blame the government! Take it in again! Again! Again! America is waiting for a message of some kind or another.
ただし、「My Life in the Bush of Ghosts」の中の数曲は、その後の再プレスや再販で削除されたり(「Qu’ran」)、使用許諾において問題が発生するといったことが起きています。特に他文化の音楽を借用する行為が「アプロプリエーション」あるいは「植民地主義的」とみなされるのは、いわれのないことだとは言い切れません。その点、「Mea Culpa」と「America Is Waiting」はアメリカのメインストリーム文化から借用してきたファウンド・サウンド(どちらもラジオのトークショーからの音源)なので、コナーの映像同様に、自己批判として機能しているのです。
ヴェネツィア国際映画祭クラシックス[1]
今年の9月に開催される第83回ヴェネツィア国際映画祭で、松竹映像センターで修復された相米慎二監督の『魚影の群れ(1983)』が上映されるそうです。ナタリーのこの記事は、相米慎二の映画の話が大部分を占め、ヴェネツィアの映画祭で上映される他の復元作品についての情報は数本の題名が列挙されているだけです。日本の映画にしか興味がないのがありありと伝わってきます。いつからか、海外の文化の情報が貧弱になっていき、海外からのニュースは「日本の作品が認められた」という話ばかりになっていきました。不特定大衆向けのニュースサイトでなく、映画専門のウェブサイトでもそんな感じです。
この映画祭で上映される「修復された映画」19作品はそれぞれ極めて興味深い映画ばかりです。そこで、4~5作品ずつ、4回に分けてここで紹介していきたいと思います。
1.危険な恋人(Col cuore in gola, 1967)開催前上映
監督:ティント・ブラス、イタリア、105分、カラー
restored by: Centro Sperimentale di Cinematografia – Cineteca Nazionale with the support of Netflix, in collaboration with Compass Film
監督のティント・ブラスは、日本では『カリギュラ(Caligula, 1980)』という炎上商法映画でクビになった監督ということで有名だと思います。その後もエロティックなコメディ映画ばかり撮っている「イタリアン゠エロスの巨匠」といったイメージが根強くあります。しかし、ブラスはもともとはアヴァンギャルド/ドキュメンタリー映像作家で、『働く者は失われている(Chi lavora è perduto, 1963)』『怒りの河(Ça ira, il fiume della rivolta, 1964)[YouTube]』などでデビュー、前述のブルース・コナーと同じく《ファウンド・フッテージ》《コラージュ》といった技法を追究していました。『怒りの河』はモンタージュによって20世紀の革命の歴史を追うという、斬新なコラージュフィルムです。同じ年に、記号学者のウンベルト・エーコがブラスに嘱託して第13回ミラノ・ビエンナーレに出品した『Tempo Libero (1964) [YouTube]』という短編映画は、万華鏡の内部のような構造の空間で上映されるというものでした。ぜひとも体験してみたいです2。
そのブラスが、メインストリームの商業映画に接近していくなかで監督したのが『危険な恋人』です。監督は、当時ポップカルチャーの最先端だったロンドンを舞台に、イタリアの漫画家、グイド・クレパックスとの共同作業を通して、《ポップ》な映画を目指したと述べています。画面分割、白黒とカラーの交錯、極端なクローズアップなどを多用しながら、二次元的/コミック的なストーリーテリングを展開します。この追跡シーンだけを見ても、極めて特異なヴィジュアルを用いながらも、どこかコミカルな、しかしそれでもサスペンスに満ちた演出に圧倒されます。
修復は、ローマのチネチッタにあるイタリア国立映画実験センター(Centro Sperimentale di Cinematografia)がNetflixからの援助を受けておこなったとのこと。映画素材は権利保持者のCompass Filmから提供を受けたようです。
2. イングリッシュ、オーガスト(English, August, 1994)
監督:デーウ・ベネガル、インド、118分、カラー
restored by: Film Heritage Foundation
私はデーウ・ベネガル監督の作品は、まだ1本も見ていません。この『イングリッシュ、オーガスト』のあと、1999年に『スプリット・ワイド・オープン(Split Wide Open, 1999)』、そして10年のブランクを経て2009年に『ロード、ムービー(Road, Movie, 2009)』を発表するという、かなり緩いペースでの製作です。いわゆるボリウッド映画とは一線を画したスタイルで、インド社会の人種や言語の多様性を操りながら、物語を進めていくというスタイルだとのこと。機会を作って見てみたいと思っています。
3. 幻影は市電に乗って旅をする(La ilusión viaja en tranvía, 1954)
監督:ルイス・ブニュエル、メキシコ、83分、白黒
restored by: Museo Nazionale del Cinema di Torino / Fundación Televisa / Cineteca Nacional México
この映画、いつになったら修復されるんだろうと思っていたのですが、ついにレストアされましたね。よかったです。メキシコ時代のブニュエルの作品は、シュールレアリズムのほのかな香りがするコメディの傑作が多いです。これはその1作。まだほかにもレストアが遅れているものがあります。
廃棄され、スクラップになることが決まった市電の133号車。酔っぱらった二人の運転手が、夜中にその133号車を車庫から出して運転し始める。普通に客たちが乗ってきて、混沌とした夜の市電運行が続いていく…。
題名からは幻想的な映像を想像していしまいますが、むしろメキシコ・シティのロケーション撮影が眩しく映る作品です。
修復は、メキシコとイタリアの共同作業だったようです。メキシコのシネテカでカメラ・ネガとオプティカル・サウンドトラックからデジタル素材が作成され、それをイタリア、トリノの国立映画美術館が映像修復、カラー修正、サウンドトラック修復をおこなったということです。
4. ミニー&モスコウィッツ(Minnie and Moskowitz, 1971)
監督:ジョン・カサヴェデス、USA、116分、カラー
restored by: Universal Pictures
カサヴェデスがハリウッドのメジャー・スタジオで脚本と監督をした作品。カサヴェデスの妻、ジーナ・ローランズが、シーモア・カッセルと共演した低予算映画ですが、カサヴェデス特有の人物造型、とにかく(映画的)魅力のない人々が描かれています。希望の行き場を失った女性とお世辞にもいい奴とは言えない男性が、どうやって関係を築くのか。
WikipediaやIMDBのデータでは上映時間が「114分」なのですが、このヴェネチア国際映画祭のサイトでは「116分」になっています。DVDは「115分」だったりしますね。公開時にカサヴェデスの了解なくスタジオが冒頭部分を切ったという話がありますが、それが復元されたのでしょうか?
“MONGOLOID,” BRUCE CONNER. [Online]. Available: http://michelle-silva.squarespace.com/mongoloid
C. Moro, “The Shorts for the Triennale Commissioned to Tinto Brass by Umberto Eco,” Domus Web. [Online]. Available: https://www.domusweb.it/en/from-the-archive/2021/03/05/tinto-brass-the-shorts-for-the-1964-triennale-commissioned-by-umberto-eco.html




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